動くグラフで追う、サッカーW杯中継の歴史変化 ― 地上波からネット配信へ


2022年サッカーワールドカップ。ドイツやスペインなど、世界屈指の強豪相手に日本代表が勝利を納めた姿は、記憶に新しい。そうした日本の大健闘と共に世間を驚かせたのは、各試合を放送する媒体の豊富さだ。地上波での放送に加えて、DAZNやABEMA、J SPORTSオンデマンドなど、スポーツ中継を行うネット配信サービスが大きく普及した。「テレビに向かって」ではなく、「スマホに向かって」スポーツ観戦に熱狂する人が増えている。一般財団法人マルチメディア振興センター(FMMC)は、「日本プロ野球や Jリーグ等の国内プロスポーツは地上波放送から有料放送や有料動画配信サービスでの中継に移行しており、国際的なスポーツ大会が同じ道を辿る可能性は十分にある1)」と述べる。スポーツ観戦の形は、今後全てネット配信などの有料放送にシフトしていくのだろうか。過去7回のサッカーワールドカップの地上波放送回数、またその放送を担うテレビ局の推移、視聴率の変化などから、日本のスポーツ中継形態の変化を紐解いていく。(取材・分析・執筆=飯田康太郎、大久保南、根元紀理子)

トップの画像は2024年3月21日、サッカーW杯2026予選・北朝鮮戦でゴールを喜ぶ日本の選手たち=©️AFP/Yuichi Yamazaki
W杯はどこで見れる?

以下のグラフは、FIFAワールドカップ1998年大会から2022年大会までの全448試合のうち、地上波で放送された359試合(配信サービスでも同時配信されたものを含む)と、配信サービスのみで配信された46試合を合わせた計405試合を年度別に集計したものだ。各年共通のデータが存在しなかったため、朝日新聞デジタルやNHKアーカイブスなど各種サイトに掲載されたデータ2,3,4,5,6,7,8,9,10,11)を各大会毎に収集、整理し、グラフを作成した。データはNHK、民放テレビ局5局、スカパー、ABEMAそれぞれに分類し、比較を行った(BS放送は含まない)。グラフ作成には、データ可視化サイト・Flourish を使用した。各大会一律64試合であり、1998年フランス大会から、64、41、41、44、64、64、41試合が地上波で放送された。1998年フランス大会では、NHKが独占放映権を獲得していたが、2002年日韓大会からは民放各局も地上波放送に参入した。2018年ロシア大会までは地上波放送される試合数は右肩上がりで、2014年および2018年大会は全試合が地上波放送されていた。しかし、直近の2022年カタール大会で地上波放送試合数が減少する結果となった。地上波以外の放送については、2002年日韓大会はスカパーが全試合中継を行った。その後は地上波放送が主となっていたが、2022年のカタール大会にて、ABEMAが全試合中継を行った。20年近く続いた地上波のみによる中継放送は幕を閉じたと言える。

 

バーチャートレースで描いたサッカーW杯中継の歴史変化(1998~2022年)
日本戦を放送する「局の分散」

毎大会ほぼすべての試合が地上波で放送されている中でも、多くの日本国民の関心を集めるのは日本代表戦であることは間違いない。では、最も視聴率が見込める日本代表戦はどこのテレビ局が放送していたのか。下の表1は、2002年以降の各大会における日本代表の試合を放送したテレビ局を示したものだ。なお、1998年フランス大会はNHKが独占放送を行った。

表1 各大会の日本代表戦を放送したテレビ局(2002~2022年)

W杯

表1から、この期間、日本代表の試合を放送するテレビ局は分散していることが分かる。2002年日韓大会、2006年ドイツ大会を除き、予選リーグで複数回日本代表の試合を放送する局はなかった。また、初戦をNHKが放送し、2・3戦目を民放各社が放送していた。NHKが全試合を独占放送していた1998年大会と比べると、放送するテレビ局の分散が進んでいる。

減少するW杯地上波放送視聴率

上のグラフでは、ABEMAをはじめとするネット配信サービスがW杯中継数を増やしていることがわかった。実際に、地上波放送の需要はどのように変化しているのだろうか。以下では、関東地区における直近3大会の日本戦の視聴率を表2~3にまとめた。データの収集には、ビデオリサーチコーポレイトサイト12,13,14)を使用した。

表2 2014年の日本代表戦の視聴率

2014

表3 2018年の日本代表戦の視聴率

2018

表4 2022年の日本代表戦の視聴率

2022

直近3大会の日本戦視聴率の平均は、2014年、2018年、2022年それぞれ、38.5、37.8、34.1(%)となる。これらの平均や表からわかるように、各試合の視聴率は次第に減少している。特に、2014年、2018年では視聴率が30(%)を下回ることはなかった一方で、2022年では第3戦の視聴率は22.4(%)となった。放送時間帯などの影響も考えられるが、全体的に地上波でサッカーW杯を見る人が減っていると言える。

 

W杯から撤退するテレビ局

グラフで示したように、地上波での放送試合は年々増加傾向にあった。放送予定の試合のうち、半分をNHKが放送し、もう半分を残りの民放各社が放送していた。しかし、2018年ロシア大会から、テレビ東京はワールドカップの放送を行っていない。2022年カタール大会では、日本テレビとTBSも続けてワールドカップの放送から撤退した。特に、2022年は放送試合数も20試合ほど減少し、2年間続いた全試合地上波放送が途切れる形になった。従って、年々、放送するテレビ局が減少していくことが読み取れる。

次々にテレビ局が撤退する理由は放映権料の高騰だ。一部報道によると、FIFA側が日本のテレビ局に放映権料として推定350億円を要求したと言われている15)。2006年140億円(推定、以下同)、2010年170億円、2014年240億円と右肩上がりに膨らむ放映権料がテレビ局に重くのしかかったといえる16)。その影響はワールドカップ予選にも表れており、アジア最終予選の中国ー日本戦は、放映権料の兼ね合いで地上波で放送されなかった17)。今後も放映権料が増加し続ければ、テレビ局のワールドカップ離れは加速していくだろう。

参考文献

1)米谷 南海「動画配信時代のスポーツ放映 ―欧米の最新市場・政策動向―」、一般財団法人マルチメディア振興センター(FMMC)、https://www.fmmc.or.jp/Portals/0/resources/ann/pdf/news/report_wo_230420.pdf、(2023年12月28日閲覧)

2)テレビ番組表の記録、https://timetable.yanbe.net/#google_vignette、(2023年12月28日閲覧)

3)NHKアーカイブス「NHKが伝えたワールドカップ」、https://www2.nhk.or.jp/archives/articles/?id=C0010804、(2024年4月23日閲覧)

4)asahi.com「WORLD CUP 2002 NHKと民放の40試合放送日程(地上波)」、https://web.archive.org/web/20030414203933/http://www2.asahi.com/2002wcup/schedule/40games.html、(2024年5月7日閲覧)
※WaybackMachineにて2003年4月14日当時のサイトを閲覧

5)NHK「2006FIFAワールドカップ放送計画」、https://web.archive.org/web/20060618082135/https://www.nhk.or.jp/sports/fifa06/hosoyotei.pdf
、(2024年5月7日閲覧)※Wayback Machineにて2006年6月18日のものを閲覧

6)NHK「2006FIFAワールドカップ放送計画」http://www.nhk.or.jp/sports/fifa06/hosoyotei.pdf、(2024年5月7日閲覧)※Wayback Machineにて2006年6月18日のものを閲覧

7)NAB 社団法人 日本民間放送連盟「2006年02月16日 2006FIFAワールドカップ民放テレビ放送枠について(報道発表)」、https://web.archive.org/web/20061211210145/http://nab.or.jp/index.php?2006%C7%AF02%B7%EE16%C6%FC%202006%A3%C6%A3%C9%A3%C6%A3%C1%A5%EF%A1%BC%A5%EB%A5%C9%A5%AB%A5%C3%A5%D7%CC%B1%CA%FC%A5%C6%A5%EC%A5%D3%CA%FC%C1%F7%CF%C8%A4%CB%A4%C4%A4%A4%A4%C6%A1%CA%CA%F3%C6%BB%C8%AF%C9%BD%A1%CB、(2024年5月7日閲覧)
※Wayback Machineにて2006年12月11日のものを閲覧

8)朝日新聞デジタル「2010ワールドカップサッカー南アフリカ大会」、http://www.asahi.com/worldcup/southafrica2010.html、(2023年12月28日閲覧)

9)ゲキサカ「2014 FIFA W杯 ブラジル大会特集 大会日程・TV放送」、https://web.gekisaka.jp/pickup/detail/?138501-138501-fl、(2024年5月7日閲覧)

10)SOCCERKING「【番組表】ロシアW杯、TV放送スケジュール一覧…NHKと民放が全64試合を生中継」、https://www.soccer-king.jp/news/world/wc/20171225/688116.html、(2023年12月28日閲覧)

11)DAZN「【テレビ放送】カタール・ワールドカップ2022の地上波・民放・ネット中継・ハイライト配信予定|W杯番組表」、https://www.dazn.com/ja-JP/news/%E3%82%B5%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC/qatar-world-cup-2022-all-tv-guide/2s1mcv911ype15cvglioedb4u、(2023年12月28日閲覧)

12)ビデオリサーチコーポレイトサイト「2014年 年間高世帯視聴率番組30(関東地区)」、https://www.videor.co.jp/tvrating/past_tvrating/top30/201430.html、(2023年12月28日閲覧)

13)ビデオリサーチコーポレイトサイト「番組平均世帯視聴率 【関東地区】」、https://www.videor.co.jp/tvrating/past_tvrating/sport/football/06/2018-fifa.html、(2023年12月28日閲覧)

14)ビデオリサーチコーポレイトサイト「番組平均視聴率 【関東地区】」、https://www.videor.co.jp/tvrating/past_tvrating/sport/football/07/2022-fifa.html、(2023年12月28日閲覧)

15)沢田啓明「〈116億円をFIFAが当初要求か〉「なでしこジャパンTV中継」ようやく開幕直前に…欧州、ブラジルも共通「女子W杯の正当な金額」という課題」、Sports Graphic Number Web、https://number.bunshun.jp/articles/-/858134?page=1、(2023年12月28日閲覧)

16)日刊スポーツ「【W杯】悲鳴上げるテレビ局「出せる金額ではない」無料放送の限界域へ高騰続ける放送権との攻防」、https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202212040000683.html、(2023年12月28日閲覧)

17)日本経済新聞「W杯予選、消えた地上波~中国スポーツバブルに日本の民放翻弄 放映権高騰、購入見送り~」、https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75764240U1A910C2EA1000/、(2023年12月28日閲覧)

 

※追記

2024年5月3日

・記事のタイトルを変更しました。

2024年5月5日

・「日本戦を放送する「局の分散」」という小見出しに続く文章から「放送枠」という言葉を削除し、表現を修正しました。

2024年5月7日

・集計対象のデータについて脚注を追加し、表現を修正しました。