山本美香さんはなぜ戦場に向かったのか

戦場に立ち、武器ではなくカメラを構える。そんな戦場ジャーナリストに「なぜ自ら危険な場所に行くのか」という問いは絶えない。しかしこれが真実であるのだとジャーナリストはいまわたしたちに戦争と平和について考えるきっかけを与えてくれる。(取材・執筆・撮影:池田百花)

 

2016年8月20日は、山本美香さんがシリアのアレッポで取材中に銃弾に倒れてから4度目の命日だった。美香さんの写真絵本『これから戦場に向かいます』[i](ポプラ社)が出版されたことを記念し、戦場ジャーナリスト・山本美香さんを語る講演会が開かれた。会場には、美香さんと世界をともに歩いたジャーナリスト・佐藤和孝さんと、美香さんのご両親、美香さんとともに番組で仕事をしてきた日本テレビ・ニュースキャスターの井田由美さんがいらっしゃった。

 

「美香ちゃん復活の書」

 

山本和子さん
山本和子さん

美香さんの母親の和子さんは絵本の読み聞かせのボランティアをしている。「いつか世界の戦争についての絵本を作って一緒に子供たちに読み聞かせをしたいねと話していたんです」。その夢は残念ながら叶わなかったが、和子さんは美香さんへの思いを込めて「これから戦場に向かいます」の朗読を始めた。

「わたしは、泣きながら叫んだ。冷静になどなっていられなかった。誰がやったんだ。激しい怒りがこみあげてきた。『ちくしょう、ちくしょう』」

 

和子さんの声が静まり返った会場のひとりひとりの胸に響いた。涙を流しながら耳を傾ける人もいた。

和子さんの朗読が終わるとかわって父親の孝治さんが挨拶をした。孝治さんは記念講演なので楽しくいこうと佐藤さんと前もって決めていたそうだ。この講演会に参加するためご自宅のある山梨からお越しになった。

「美香ちゃんのお墓のわきに一株植えたつゆ草が今は競うように生えています。棺に一緒に入れてあげたつゆ草です。面影は今でもあちこちにあります」という孝治さんの言葉に胸が痛くなった。

そしてこの本の出版について「今日は本当にびっくりしました。母親の和子が朗読するとなんだか美香ちゃんが乗り移ったような気がしました。つまり、この本が出版されたことで、どこか遠くに行ってしまっていた美香ちゃんが復活したような気がしたんです。わたしはこの本を美香ちゃん復活の書だと思っています。」と話していた。

 

美香さんの写真から伝わってくるもの

 

わたしはゼミで、NHK BS1スペシャルのドキュメンタリー「それでもジャーナリストは戦場に立つ」[ii]を見た

山本孝治さん
山本孝治さん

ことがある。ドキュメンタリーのなかで、山本美香さんが戦場の女性や子供たちに優しい表情で話しかける映像が今でもとても印象に残っている。戦場でも人々の前で歌を歌って笑わせたり、寄り添って話を聞こうとしたりしていた。そうすることで女性も子供も美香さんに真っ先に心を開いてくれる。美香さんだからこそできる取材なのだと思った。

写真絵本『これから戦場に向かいます』には、1996年のアフガニスタンから2003年のイラク、そして美香さんが銃弾に倒れたシリア・アレッポで撮影した写真まで掲載されている。美香さんの写真から伝わってくるのは、戦争で被害を受ける一般市民から恐怖や悲しみを取り去りたいという強い思いであり、平和への祈りである。

 

世界中の戦場ジャーナリストたちの祈り

 

講演会の冒頭では、パートナーだった佐藤さんが世界中の戦場ジャーナリストの経験を話した。
佐藤さんは自身と同じように、戦場でパートナーや家族を失った世界中のジャーナリストたちに問いかけたことがあるという。
「ジャーナリストとは命を懸けてまでやる仕事なのか」
答えは様々だった。
「事件の目撃者になりたい」
「戦争の当事者双方を冷静にさせ、戦争をやめさせたい」
「私は再びシリアに行く。私にとって私の事件は終わっていない」
佐藤さん自身はどのように考えているのか。
「私は命を懸けてまでする仕事ではないと思っています。家を出た時から取材をしてまた家に帰ってきてこそ仕事だからです」。また「死ぬのは怖い。でも恐怖を感じたら一歩も前に進めなくなる」とも話していた。
それでも佐藤さんは戦場の取材に向かうのだろうと、わたしは思った。
ジャーナリスト自身が死という恐怖と闘いながら、戦争という間違いを世界に伝えるために。

 

[i] 山本美香『これから戦場に向かいます』(ポプラ社、2016)

https://www.poplar.co.jp/shop/shosai.php?shosekicode=49001980

[ii] NHK BS1スペシャル『それでもジャーナリストは戦場に立つ』

http://www3.nhk.or.jp/pr/keiei/shiryou/soukyoku/2013/05/003.pdf

・一般財団法人「山本美香記念財団」HP  http://www.mymf.or.jp