<コラム> 戦争を ” 自分ごと ” に


沖縄を訪れるのは4回目です。高校の修学旅行で平和学習に取り組んだ経験もあります。当時17歳、ひめゆり学徒隊の生徒と同じ年齢だった私は「かわいそう」「もし私だったら耐えられない」と彼女らと自分を重ね合わせていました。しかし今回、ひめゆり平和祈念資料館の古賀徳子さんと、ガイドの井出佳代子さんのお話をお聞きして、「重ね合わせる」だけでは体験世代がいなくなろうとしている戦争を後世に語り継ぐためには不十分であり、非体験世代である私たちがどれだけ戦争を“自分ごと”として捉えることが大事かを身にしみて感じました。(文・写真=道上美璃。トップの写真はひめゆりの塔・慰霊碑=糸満市)

 

戦争体験講話から平和講話へ

ひめゆり平和祈念資料館では2015年、戦争経験者による体験講話を廃止し、非体験者による平和講話に切り替えました。壇上に上がって辛い体験を長時間話すのは高齢化した体験者には酷だと彼女らの精神と体力を考えてのことだそうです。

近年、女子学徒隊が経験した戦争が「愛国心に満ちた乙女が最後まで兵士を看て美しく死んでいった」綺麗事だと捉えるような誤解が生まれています。そうした誤解を解くためには具体的な経験談を伝えることができる体験世代による講話が最も有効ですが、体験しているからといって簡単に伝えられるわけではありません。重要なことは、伝えられる側がどのように受け取るかを意識することだとわかりました。

平和講話を行う古賀さんらも資料館でどういう資料で伝えていくかを試行錯誤していらっしゃっていて、映像や絵など見る人の心に刺さるコンテンツを提供し、そして見る人が自分との「接点」を見つけられるような展示を行うことで非体験世代が戦争を“自分ごと”として捉えられるような手助けをしているそうです。

私は高校時代に箏曲部に入っていました。そのこともあり、資料館の展示では、箏を弾いていた女学校の生徒たちの日常が奪われて戦争に侵食されていく過程がどれだけ過酷だったかをリアルに感じることができました。2020年に資料館の展示がどのようにリニューアルされるのか、体験世代がもつ専門性を知識でカバーする非体験世代が戦争をどのように伝えていくのか引き続きキャッチアップしていきたいと思います。

 

戦争に巻き込まれた民間人は女子学徒だけではない

今回初めて、沖縄戦を戦った男子学徒について学習する機会を得ました。最も衝撃だったのは、兵士として召集された男子学徒の年齢が12歳以上とあまりにも低かった点、そして彼らの召集が法律に基づいた正当なものではなかったという点です。

「沖縄師範健児之搭」のそばに建てられた「平和の像」。3人の学徒が友情・師弟愛・永遠の平和を表わしている。近くに男子学徒が命を落としたガマと納骨堂がある=糸満市
「沖縄師範健児之搭」のそばに建てられた「平和の像」。3人の学徒が友情・師弟愛・永遠の平和を表わしている。近くに男子学徒が命を落としたガマと納骨堂がある=糸満市

兵士として戦争の最前線で戦うはずの彼らが半袖短パンに素足と、相手の攻撃に到底耐えられるはずのない格好で戦場に放り出されていたこと(大田昌秀・元沖縄県知事の経験より)にも驚きました。ひめゆり学徒隊については記念資料館を訪れることで学ぶことができるため、女子学徒が沖縄戦に巻き込まれた民間人のすべてだと思い込んでいました。しかし、それは大きな間違いで、女子学徒よりもさらに若い男子学徒が、さらに前線に駆り出され、300人近くが命を落とした事実をまずは知るべきだと思いました。そして実際に多くの男子学徒が命を落としたガマ・納骨堂を目の当たりにし、これだけ戦争があったことを現実的に感じることができる遺跡があるのだから、もっと多くの人が興味を持つような取り組みができたらいいと思いました。

 

日常生活に爪痕を残す沖縄戦

今回の研修を通じて、沖縄県民の日常生活の中に沖縄戦の爪痕が強く残っていると感じた部分が多くありました。事前に読んだ課題図書『沖縄戦を知る事典 非体験世代が語り継ぐ』の中にも「沖縄戦を境に、その前後では沖縄の社会・文化が大きく変化しており、沖縄戦は避けて通れない(p10)」という一文がありました。

普天間基地近くの嘉数高台公園の上空を飛ぶオスプレイ=宜野湾市
普天間基地近くの嘉数高台公園の上空を飛ぶオスプレイ=宜野湾市

最も大きいのは米軍基地の存在です。米軍にとって「地理的優位性」があるという理由で日本の米軍基地の75%が沖縄にあるという事実は知っていました。しかし、実際にオスプレイが自分の真上を飛行する状況を体験して、迷惑な騒音と墜落の危険性に沖縄県民が常に晒されている現状を、身を以て体験しました。今回の研修では、琉球朝日放送のニュースのスタジオなども見学しました。その日のトップニュースが辺野古基地の地盤の問題を取り上げたものであることからも、基地関連のニュースが重要視されており、県民が最も興味を持つものであることが見てとれました。

沖縄が抱えている問題の現状を理解し、自分の考えを持つためには現地を訪れることが大切です。綺麗な青い空・青い海の沖縄を目にしましたが、昔、赤い空・黒い海の沖縄だった時代があることを知り、それらを風化させてはいけないと強く思いました。

辺野古の埋め立て工事の様子。手前は大浦湾(撮影・河合遼)
辺野古の埋め立て工事の様子。手前は大浦湾(撮影・河合遼)

辺野古は大浦湾に面しています。研修の最終日には、辺野古の埋め立て工事を一望できる瀬嵩の丘に上がり、そこから埋め立ての様子を眺めました。そのとき、多くのゼミ生が大浦湾の真っ青な海を見て「この綺麗な海を見て、辺野古移設に賛成はできない」と語っていました。現地を自分の目で見ることで初めて自分の意見を持つことができるし、その主張をする資格があるとも思いました。この研修旅行をきっかけに、これからも沖縄に興味を持ち続けていきたいです。

このコラムは2019年9月のゼミ沖縄研修旅行をもとに作成されました。