【ファクトチェック】「大村知事リコールへの運動妨害は公選法違反」は誤り。Dappiが2020年10月2日に投稿


トップの画像はTwitterより
対象言説

2020年10月2日、TwitterアカウントDappiが以下のツイートをしている⑴。

「・大村知事は昭和天皇が燃える映像などを展示することを隠し愛知県の税金で表現の不自由展開催・”署名をすると個人情報漏洩”は左派のデマ・大村知事リコールへの運動妨害は公選法違反」。

(Twitterより)
(Twitterより)

今回は、「大村知事リコールへの運動妨害は公選法違反」という言説をファクトチェック対象とする。

なお、「昭和天皇が燃える映像などを展示することを隠し愛知県の税金で表現の不自由展開催」という点に関しては「隠し」ていたか検証することが困難であるため、また、「”署名をすると個人情報漏洩”は左派のデマ」という点は「左派」という表現が抽象的であることから、ファクトチェック対象としなかった。

選定理由

Dappi(@dappi2019)は約17.8万フォロワーがいるアカウントで影響力が高い。このツイートも2022年3月10日現在、802件のリツイート、17引用リツイート、1874いいねを獲得している。「メディアが報道しない情報」とされているが、本当にそうした事実はあったのか、検証する必要があると考えた。

判定
大村知事リコールへの運動妨害は公選法違反=誤り
判定理由
公職選挙法ではなく、地方自治法違反の疑い

今回の言説の発端となっているのは、愛知県の大村秀章知事リコール運動を巡る署名偽造事件に関して、精神科医の香山リカ氏らが「署名の受任者を引き受けた方の住所氏名は、早速、県の公報で公開されてる⑵」2020年8月26日のツイート)との情報をTwitter上で拡散していた事であるとみられる。

「署名の受任者」とは「署名収集受任者」のこと。昭和二十二年政令第十六号の地方自治法施行令第九十二条②には、「条例制定又は改廃請求代表者は、選挙権を有する者に委任して、そのものの属する市町村の選挙権を有する者について、前項の規定により署名を求めることができる⑶」とある。つまり、ここでいう「受任者」とは「リコール運動の代表者から署名の収集を委任された者」のことを指している。

以下は、2021年9月10日毎日新聞の記事⑷の記述だ。

 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡る署名偽造事件で、「署名の受任者を引き受けた方の住所氏名は県公報で公開される」などと虚偽の情報をネット交流サービス(SNS)で発信して活動を妨害したとして刑事告発されていた精神科医の香山リカ氏ら4人について、愛知県警が地方自治法違反(署名運動妨害)の疑いで名古屋地検に書類送付していたことが、関係者への取材で判明した。県警は起訴を求める意見を付けず、不起訴処分となる見込み。

 上記の記事にもあるように、本件は公職選挙法ではなく、地方自治法違反の疑いで書類送付が行われている。署名運動妨害に関する条項は、地方自治法第七十四条の四⑸として定められており、公職選挙法の範疇ではないからだ。以下、地方自治法第七十四条の四の記述を抜粋したものだ。

「条例の制定又は改廃の請求者の署名に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。

(中略)

二 交通若しくは集会の便を妨げ、又は演説を妨害し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて署名の自由を妨害したとき。」

「違反の嫌疑」がなくても、その書類送致は行われる仕組みとなっている

また、Dappiのツイートでは、警察から検察への書類送付時に公選法「違反」という表現を使用しているが、この表現は不適切だ。使うとすれば「違反の疑い」となる。しかし、「違反の嫌疑」があったかどうかも微妙だ。2021年9月9日に配信された東京新聞の記事⑹は、「書類送付」の手続きの意味を次のように書いている。

元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は「警察は告発を受理するとその後、必ず書類を送付することになる。捜査しただけで嫌疑の疑いがないという認識の時でも検察庁には書類を送付する」と説明する。つまり、愛知県警は高須氏から行われた告発に対する捜査の結果について必ず検察庁に報告せねばならず、捜査した書類を検察庁に「送付」する手続きを取ったことになる。

告発を受理すると、違反の有無にかかわらず書類は必ず送付されるということだ。刑事訴訟法第246条⑺に、そのことが明記されている。各紙の報道によると、愛知県警は、本件の書類送付に際して起訴を求める意見は付けなかったという⑻

つまり、Dappiが書いた「公選法違反」は間違っており、正確には「地方自治法違反の疑い」とすべきだった。また、「違反の嫌疑」がなくても、その書類送致は行われる仕組みとなっていることも重要である。

以上のことから、「大村知事リコールへの運動妨害は公選法違反」という言説は誤りと判定した。

なお、香山氏は、最初のツイートの2日後にあたる2020年8月28日に「公報に載るのは代表者の住所氏名だけなんですね。その点は誤解してました」と訂正ツイートをしている⑼。

脚注

(1)Dappi、Twitter、2020年10月2日
https://twitter.com/dappi2019/status/1311991528827445249

(2)香山リカ、Twitter、2020年8月26日 

https://twitter.com/rkayama/status/1298278414248361984?s=20

(3) e-GOV法令検索、「昭和二十二年政令第十六号 地方自治法施行令 第九十二条②」

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322CO0000000016

(4)毎日新聞、「署名妨害疑い、4人不起訴へ 愛知・知事リコール」、2021年9月10日

https://mainichi.jp/articles/20210910/ddm/041/010/057000c

(5)e-GOV法令検索、「昭和二十二年法律第六十七号 地方自治法 第七十四条の四

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000067

(6)東京新聞、『香山リカ氏、津田大介氏らの「書類送付」が意味するものとは 愛知県知事リコール妨害容疑』、2021年9月9日

https://www.tokyo-np.co.jp/article/129854

(7) e-GOV法令検索、『昭和二十三年法律第百三十一号

刑事訴訟法』
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000131#Mp-At_246

(8)東京新聞(共同通信配信記事)、『香山リカ氏、津田大介氏ら書類送付 起訴求める意見は付けずか 愛知知事リコール妨害容疑』、2021年9月9日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/129803

(9)香山リカ、Twitter、2020年8月28日
https://twitter.com/rkayama/status/1299052807132082176?s=20&t=14L7Q62u8BFMNMgIJyEroA

*最終アクセス日はいずれも2022年3月10日

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調査・記事担当者=金子祥子、小室麻由

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