【ファクトチェック】財政調整基金 大阪府・市で3000億円「積み上げてきた」はミスリード。2021年度は半減の見込み。日本維新の会の松井代表がテレビ番組で発言


(トップの画像は2021年10月14日に放送されたTBS「news23」より)
対象言説

日本維新の会の松井一郎代表は2021年10月14日、TBSの「news23」で行われた9党首討論会で「大阪だけでも府市合わせて3000億、預貯金を基金を、積み上げてきた」と述べた(該当部分は20分57秒~)(1) 。

大阪府が積み立てている基金は数多くあるが、ここで言及されている基金は金額と文脈から「財政調整基金」であると考えられる。大阪府のホームページによれば、財政調整基金は「年度間の財源不足への不均衡を調整するために積み立てられる基金で、予期せぬ税収減や災害発生等の支出増加等への備えとなるもの」と説明されている。(2)

今回は「大阪府・大阪市合わせて3000億の財政調整基金が積み上げられてきた」という言説を検証する。なおこの記事では、日本維新の会が行ってきた制度改革と財政調整基金の積み上げ金額における因果関係については考察しない。

選定理由

この発言は、同日TBSの「news23」で放送された。また、73万人の登録者がいるTBSの公式YouTubeチャンネルでも配信されており、その動画は10月29日時点で80万回再生されている(1)。衆院選の投開票を31日に控えている中(3)、松井代表の発言は大きな影響力を持ち得る。多くの政治家がこれまでの政策成果をアピールする狙いを持って発言する傾向が高まる今、正確な事実認識に基づいた判断を有権者が行えるよう、具体的な成果を強調したこの言説を検証することにした。

判定
大阪府・大阪市合わせて3000億の財政調整基金が積み上げられてきた=ミスリード
判定理由
大阪府・大阪市の財政調整基金残高、2020年度は3370億円。21年度は9月時点で1638億円の見込みをすでに公表

大阪府の2020度末の財政調整基金残高は1706億円(4)、大阪市は1664億円(5) だった。2021年度末の見込みの金額はともに2021年9月発表のもので、大阪府が732億円(6)、大阪市が906億円とされている(7)。松井代表が言及している大阪府と大阪市の合計額については、2020年度は3370億円。2021年度は1,638億円に半減する見込みだ。

表1大阪府・大阪市 財政調整基金の年度別合計額(億円)

大阪府 大阪市 合計額
2020年度 1,706 1,664 3,370
2021年度(見込み) 732 906 1,638
(大阪府公式ホームページ「財政ノート(令和3年9月)」「12.基金の状況(年度末現在高)」、大阪市公式ホームページ「報道発表資料 令和2年度大阪市決算について」、大阪市「〈一般会計〉新型コロナウイルス感染症対策における財政規模(令和3年9月現在)」をもとに筆者作成)
コロナ対応のため、2021年度は財政調整基金を切り崩す見込み

大阪府が2021年2月に行った記者会見資料を確認すると、新型コロナウイルス感染症対策費の財源不足を賄うため、「財政調整基金を935億円取り崩す必要がある」としている(8)。また、大阪市も3月に「依然として財政調整基金の取崩等による対応が必要な状況」と公表している(9)。

今年度の財政調整基金の残高が著しく減少する見込みであることは、半年以上前から発表されている。しかし、松井代表は、2021年10月14日放送の党首討論会で、時期を明確にせず「基金を積み上げてきた」と発言した。

視聴者が現在の財政調整基金の状況と誤解する可能性が高いため、「大阪府・大阪市合わせて3000億の財政調整基金が積み上げられてきた」という言説は、ミスリードであると判定した。

(補足)主な地方自治体の財政調整基金の状況
東京都は2019年度9345億円。2021年度は1976億円に減少見込み

以上がファクトチェックである。なお、財政調整基金を大幅に切り崩すのは大阪府・市に限った現象ではない。2021年5月30日の東京新聞の記事(10)によれば、47都道府県の2020年度の財政調整基金残高は2019年度に比べ、計7141億円(約36%)減少している。また、財政調整基金が減少したのは27都府県(2割以上減少は8都県)だった。

切り崩しの理由として、「コロナ対策関連の支出増や、コロナ禍を受けた景気悪化による税収減の補填」(10)などが多く挙げられている。20道府県は増加しているが、「地方債(借金)の追加発行や、別目的で積み立てた基金の統合などによって財調の減少を回避しただけで、実際の財政状況は見かけよりも厳しい」(10)という。

主な地方自治体の財政調整基金の状況を調べてみた。以下の表のようになっている。

表2 主な地方自治体の財政調整基金の状況(億円)

2019年度 2020年度 2021年度(見込み)
東京都*¹ 9345 5327 1976
大阪府*¹ 1562 1706 732
愛知県*² 954 954 477
福岡県*³ *⁴ 357 178 158
神奈川県*⁵ 616 1040 350
*1 東京都と大阪府の2019年度・2020年度の金額は決算額。2021年度の金額は今年9月時点での年度末残高見込み。

*2 愛知県の2019年度の金額は決算額、2020年度の金額は最終予算ベース、2021年度の金額は当初予算ベース。

*3 福岡県は、財政調整基金・減債基金・公共施設整備基金の3基金を合わせた合計額。

*4 福岡県の2019年度の金額は決算額、2020年度の金額は2月補正予算(当初提案)ベース、2021年度の金額は当初予算ベース。

*5 神奈川県の2021年度の金額は2019年度の金額は決算額、2020年度・2021年度の金額は今年2月時点での年度末残高見込み。

(東京都「令和2年度『東京都年次財務報告書』の概要」、大阪府公式ホームページ「財政ノート(令和3年9月)」「12.基金の状況(年度末現在高)」、愛知県「あいち 財政の概要」、福岡県「令和3年度当初予算〈参考資料〉」、神奈川県「令和3年度当初予算の概要」、総務省公式ホームページ「基金残高等一覧 令和元年度 都道府県」をもとに筆者作成)(11)~ (15)

 

財政調整基金は自治体の「貯金」と称されることが多いが、元をたどれば市民の税金だ。現状を正しく認識できるよう、丁寧で分かりやすい説明が求められる。

脚注

(1)  TBS公式YouTubeチャンネル「【NEW】TBS与野党9党首討論会 」学生の前で…現金給付は?財源は?子ども・子育ては?【ノーカット】」、2021年10月15日、20分57秒ごろ~

https://www.youtube.com/watch?v=BWDvVCeQF4E

(2)  大阪府公式ホームページ「財政の見える化」

https://www.pref.osaka.lg.jp/shichoson/zaiseibunseki/

(3) NHK、『ニュース7』、NHKプラス、2021年10月14日、50:53~(配信は2021年10月21日午後8時15分まで)

https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2021101412797?cid=jp-YV1K1Z3YV8

(4) 大阪府公式ホームページ「財政ノート(令和3年9月)」、「12.基金の状況(年度末現在高)」

https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/5406/00408211/P055-056.xlsx

(5) 大阪市公式ホームページ「報道発表資料 令和2年度大阪市決算について」https://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/zaisei/0000545619.html

(6) 大阪府公式ホームページ「財政ノート(令和3年9月)」、「12.基金の状況(年度末現在高)」

https://www.pref.osaka.lg.jp/attach/5406/00408211/P055-056.xlsx

(7) 大阪市「〈一般会計〉新型コロナウイルス感染症対策における財政規模(令和3年9月現在)」https://www.city.osaka.lg.jp/zaisei/cmsfiles/contents/0000543/543589/korona.pdf

(8) 大阪府公式ホームページ「『令和3年度当初予算案』記者会見資料(2021年2月18日実施)」

https://www.pref.osaka.lg.jp/koho/kaiken2/20210218f.html

(9) 大阪市「〈一般会計〉大阪市新型コロナウイルス緊急対策における財政規模(令和3年3月現在)」

https://www.city.osaka.lg.jp/zaisei/cmsfiles/contents/0000526/526894/korona.pdf

(10) 東京新聞「47都道府県の『貯金』、わずか1年で36%減 「財調」本誌調査…コロナ禍で政府の支援追いつかず」、東京新聞TOKYO Web、2021年5月30日

https://www.tokyo-np.co.jp/article/107590

(11) 東京都「令和2年度『東京都年次財務報告書』の概要」、p.4

https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2021/09/22/documents/05_02.pdf

(12) 愛知県「あいち 財政の概要」、p.6

https://www.pref.aichi.jp/uploaded/life/346196_1414051_misc.pdf

(13) 福岡県「令和3年度当初予算〈参考資料〉」、p.4

https://www.pref.fukuoka.lg.jp/uploaded/attachment/129420.pdf

(14) 神奈川県「令和3年度当初予算の概要」、p.11

https://www.pref.kanagawa.jp/documents/3847/01_3nendotousyo_zaiseika.pdf

(15) 総務省公式ホームページ「基金残高等一覧 令和元年度 都道府県」

https://www.soumu.go.jp/iken/kikinzandaka.html

 

*最終アクセス日はいずれも2021年10月29日

 

運営責任者=瀬川 至朗

調査・記事担当者=丹羽ありさ、鳥尾祐太

WaseggはFIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)のメディアパートナーであり、この記事ではFIJのClaim Monitorの情報を活用しています。

レーティング(判定)はFIJが策定した基準(下記参照)を用いています。

 

FIJレーティング