公園ににぎわいを取り戻すには ― 練馬区の公園づくり・公園管理の現場から


目次

はじめに 禁止事項だらけの公園

第1章 公園の役割の多様化と規制の増加

第2章 規制看板は外せない?

第3章 「能動的に人生を切り開いていく、一つのきっかけになれば」 ―子どもたちの公園づくりワークショップ

第4章 「すがすがしくて、とても楽しい」 ―住民自主管理で支える立野公園

終わりに これからの公園づくりと公園管理 ―魅力溢れる公園に必要なものとは

 

はじめに 禁止事項だらけの公園

小学生の頃、毎日のように通っていた近所の公園がある。キャッチボールができるくらいの広場と、ブランコや滑り台などの遊具、そして夏には水遊びができるちょっとした噴水のようなものがある。そんなどこにでもあるような公園だが、私にとってはとても思い出深い場所だ。当時は、約束をせずとも公園に行けば、誰かしら友達がいて、多くの子供や家族連れで賑わっていた。しかし、近年では、その公園を通りがかった際にそういった光景はあまり見られず、無人で静まり返っていることも珍しくない。

少し寂しさを感じながら公園内を覗いてみると、「○○禁止」といったような、規制を示す看板がいくつも建てられ、公園内でできることが以前に比べ限られていることが分かった。

写真1、2 練馬区の公園内に設置されている看板(著者撮影)
写真1、2 練馬区の公園内に設置されている看板(筆者撮影)

そこで、近所の公園5つを回り、設置されている看板の数を調べてみた。結果は以下のとおりである。

図1 著者の近所にある5つの公園の看板数
図1 筆者の近所にある5つの公園の看板数

 

図2 著者の近所にある5つの公園の1アールあたりの看板数
図2 筆者の近所にある5つの公園の1アールあたりの看板数

公園内で見受けられた看板は、「夜間、早朝お静かに」「危険なボール遊び禁止」「ほかの利用者や周辺の方に危険や迷惑のかかる遊びはやめましょう」と書かれたものが多くあった。また、中には「ラジオ体操のボリュームを調節してください」といったものや、「小型無人機(ドローン等)を飛ばさないでください」といったものまであった。

そして、図2にある通り、調査した5つの公園では、平均して1アールあたり0.7枚の看板が設置されていた。10m間隔で看板が置かれているようなイメージである。特に公園Bと公園Cでは、多くの看板が立ち並んでいる印象を受けた。ここまで禁止事項を並べ立てられてしまうと、なんだか窮屈な気分になってしまう。公園の利用者が減ってしまった背景には、こうした過剰な規制があるのではないだろうか。

それでは、なぜ公園はここまで規制だらけになってしまったのか。そして、たくさんの人が来たいと思うような、魅力ある公園を作るには、どうすればよいのだろうか。静まり返ってしまった公園に賑わいを取り戻すために、公園をどう作り、どう管理し、どう利用していくのか。私の住む練馬区での公園づくり、公園管理の現場を取材し、考えていきたい。(取材・文・写真=山田若奈)

 

第1章 公園の役割の多様化と規制の増加

具体的な取り組みを探す前に、まずは全国の公園を取り巻く実態と、公園に対する人々の意識について整理をしてみる。

図3 公園の種類[2]
図3 公園の種類[2]
図4 公園の利用者数の推移[1]
図4 公園の利用者数の推移[1]
国土交通省が発表している、42都道府県・60市・2特別区の256公園、17か所の国営公園の計273公園を対象に実施された『平成26年度都市公園利用実態調査』[1]によると、住区基幹公園、特に街区公園[2]の平均利用者数は、昭和63年以降減少傾向にある。住区基幹公園は、利用者の近くにある、という特性を持っており、冒頭で述べた、私が昔遊んでいた公園も街区公園に区分される公園で、利用者の減少は例外ではなかったと分かった。

さらに、株式会社ボーネルンドが2017年に行った、『昔と今の公園に関する意識調査』[3]では、街区公園の利用者減少の背景が浮き彫りにされている。この調査は、「3歳~12歳の子供を長子に持つ、全国の母親・父親1600人に、自身が子供の頃に遊んでいた『昔の公園』と、自身の子どもが現在遊んでいる『今の公園』について」インターネットを通じて実施されたものである。

図5 株式会社ボーネルンド『昔と今の公園に関する意識調査』[3]より抜粋
図5 株式会社ボーネルンド『昔と今の公園に関する意識調査』[3]より抜粋
前提として、93.7%の親が、「公園で遊ぶことが子どもの成長にとって大事だと思う」と回答しており、現代においても、子どもを公園で遊ばせたいと考えている親は9割を超えている。にもかかわらず、彼らが子どもの頃、公園で遊んでいた頻度、時間を彼らの子どものそれと比較すると、どちらも減少しているという実態が明らかとなった。

図6 株式会社ボーネルンド『昔と今の公園に関する意識調査』[3]より抜粋
図6 株式会社ボーネルンド『昔と今の公園に関する意識調査』[3]より抜粋
その背景に、77.9%の親が「『今の公園』は、『昔の公園』に比べて規制や禁止の事項が増えた」と回答しており、さらには、46.8%の親が、「『昔の公園』に比べ、『今の公園』は魅力が無くなった」と回答した。その理由として最も多く挙げられたのは、「昔の公園」の方が、「ボール遊びや騒音などへの禁止事項や規制が少なく、自由だったから」であった。このように、公園にかけられる規制や禁止事項が増えたことが実感として多くの人にあり、それが利用者の減少につながっていると予測できる。

図7 株式会社ボーネルンド『昔と今の公園に関する意識調査』[3]より抜粋
図7 株式会社ボーネルンド『昔と今の公園に関する意識調査』[3]より抜粋
一方で、国土交通省の『都市公園利用実態調査』[1]によると、都市基幹公園と広域公園、国営公園[2]では、平均利用者数が昭和57年から63年にかけて大きく減少したものの、それ以降は横ばいで推移し、国営公園では増加傾向にある。これらの公園は、住区基幹公園よりも広い面積を持ち、自由度が高く、様々な用途に利用できるという特性がある。また、同調査では、対象となった全ての種類の公園について、高齢者の利用者の割合が高くなっていることが分かっている。

さらには、「欲しい公園」に関するアンケート調査の回答として、「子供を安心して遊ばせられる公園」が最も多かったものの、「ゆっくり休むことができる公園」「住まいの近くや街なかなどにある身近な公園」等、求められている公園は様々であり、訪れた「公園を知ったきっかけ」における「インターネット」の増加傾向は着目すべきポイントだ。

このように、利用者が何らかの目的を持って公園に行くのであれば、上記の特性を持った国営公園等で利用者が増加するのも頷ける。裏を返せば、住区基幹公園においても、それぞれの公園の役割を明確化し、近隣住民のニーズを満たす自由度の高い公園を作ることができれば、利用者増加を期待できる。何より、同調査において利用者がその「公園を選択した理由」として挙げたもので最も多かったものは、「近い」であったからだ。

第2章 規制看板は外せない?

住区基幹公園の利用者の減少の要因の一つが規制や禁止事項が増えたことによる自由度の低さなのであれば、公園内に設置されている規制看板をなくす、あるいは減らすことはできないのだろうか。

私の住む練馬区のホームページを見てみると、『練馬区独立70周年記念事業「子どもたちの公園づくりワークショップ」を開催しました』という掲示があった。[4]読んでみると、このワークショップは、「子どもたちが理想とする公園のイメージ」を、公園の基本計画に反映させることを目的に開催されたとしている。これが成功したとなれば、子どもたちが魅力を感じ、たくさん遊びに来たいと思える、規制の少ない公園が出来上がっているのではないだろうか。

そんな期待を込め、規制看板に関する練馬区の公園の現状と、このワークショップ事業について詳しく知るべく、練馬区内の日々の公園の維持・管理や、事業計画立案を担当する、練馬区土木部の職員の方4名に、話を聞いた。

写真3 練馬区立公園の共通ルールを示す看板。全ての区立公園に設置されている(著者撮影)
写真3 練馬区立公園の共通ルールを示す看板。全ての区立公園に設置されている(筆者撮影)

「基本的に、近隣の方から苦情があった時に、現場を確認して、施設そのものを改変することで、状況を改善することができれば、まずはそうするんですけどね」。そう語ってくれたのは、土木部西部公園出張所に所属し、公園の維持・管理を行っている、宮津さんだ。「それではどうしようもないものに関しては、看板を設置する、という流れで進めています」。

宮津さんの話によると、区に寄せられる意見には、公園の管理に関することと、利用に関することの二つに大きく分けられる。管理に関することで言えば、清掃状況、植栽管理、器具等の破損についての苦情が多く、利用に関することで多いのは、ボール遊び、犬の連れ込み(練馬区立公園では、原則公園内への犬の連れ込みは禁止されている)、夜間のたむろについてだと言う。管理面では区の方で対応することが可能なものが多いが、利用面においては、公園に職員が常駐しているわけではないため、寄せられた意見に沿う形の規制看板を設置せざるを得ないのだそうだ。

「子どもの声がうるさい」といった苦情を聞くと、第三者の立場では「公園なのだから子供が遊んでいて当たり前なのではないか」と感じてしまうが、土木部道路公園課公園係係長の渡邉さんは、「近隣に住んでいる方にとっては、朝から晩まで、毎日続くことであるので」と理解を示す。一方で、そういった苦情を「自分が言った、ということが分かってしまうと、何らかの標的になってしまうのではないか、という恐れもあってか、匿名で来ることが多かったりして、こちらも詳しい位置の特定などができず、難しいケースも多いですね」と頭を悩ませている。

看板設置の効果についても、トラブルが起きた際に、看板を根拠として注意がしやすいというメリットはあるものの、宮津さんは「看板そのものは、個人の気持ちに訴えるしかないので、無視されてしまったらダメかな」と苦笑いを浮かべた。苦情の内容が特定の人に向けられている場合には、区の職員が時間を見計らって、直接注意をしに行くこともあるのだそうだが、それも「いたちごっこのよう」で、一度注意を促したところで解決するものでもない。

このような近隣トラブルは、利用者、居住者、そして区、それぞれの認識のズレが原因にあると、彼らは感じている。区としては、ただそこにあるだけの公園では、存在する意味がないので、より多くの人に利用してもらいたい。一方の居住者は、生活に支障をきたすため、なるべく静かにしてほしい。他方で、利用者の中には、他の利用者や近隣住民への迷惑行為を顧みない人もいる。

この平行線を辿る課題に対して、「公園づくりワークショップ」は解決の糸口となるのだろうか。

そもそも、この「公園づくりワークショップ」は、練馬区だけで行われているものではない。公園づくりにおけるワークショップとは、一般的に公園の企画設計段階から住民が参加することを指す。通常であれば、行政側が基本的な企画の立案・設計等を複数案作成した後、近隣住民を招いて意見交換会を開き、承認を得る。そこで住民からの意見を聞いたり、質問や要望があれば、適宜変更を加える等して対応しながら、現場の工事が進んでいく、というのが大まかな流れであり、あくまでも中心にいるのは行政である。

一方で、ワークショップを行う場合は、どのような公園にするのか、どのような遊具を置くのか、何をどこに配置するのか等、企画設計段階から近隣住民主導で話し合いを進めていく。この手法は1982年ごろから取り入れられるようになり[5]、全国各地で開かれている。練馬区でも、現段階で685か所ある区立公園のうち、8か所の公園がワークショップを経て設立された。

「今回のワークショップは少し特殊で、子どもたちが描く、公園の理想像をテーマにしているので、近くの小学校3校の4年生を対象に参加者を募りました」。そう話してくれたのは、土木部計画課設計第三係の伊藤さんだ。伊藤さんは、「子どもたちの公園づくりワークショップ」を担当し、実際にワークショップにも立ち会われた方である。ワークショップでは、伊藤さんをはじめとする区の職員の方が先導したわけではなく、東京藝術大学の学生に依頼をし、進行を務めてもらった。参加した計27名の小学生によるワークショップの内容を反映した基本計画[6]をもとに、住民説明会を開き、地域住民の方の意見も拾い上げて、最終的に公園が完成したそうだ。「やはり参加された子どもたちや保護者の方々は、公園の完成を喜んでくれた人が多かったし、公園に対する愛着も芽生えた実感があります」。

一方で、ワークショップが公園内の規制を減らすことに繋げられるか聞いてみると、「ワークショップを経て作られたからといって、トラブルが減るという印象はあまりない」そうだ。ワークショップを経て作られた公園でも、やはり規制を減らすことは難しいようだ。少し落胆していると、「でも、住民自主管理をされている公園は、トラブルが比較的少ないように感じます」と渡邉さんが話してくれた。

公園の「住民自主管理制度」を拡充することが、公園を巡る課題解決への一つのカギになると、渡邉さんは語る。この制度は、『練馬区みどりの総合計画(平成31年度~平成40年度)』[7]の重点施策にも位置付けられており、練馬区では、現段階で685か所ある区立公園のうち、21団体が29か所で住民自主管理制度を利用し、公園を自主管理している。通常は日々の清掃等の管理は区が委託した業者によって行われるが、この制度では、区と契約を結んだ有志の地域住民が行う。

渡邉さんによると、住民が自主管理をすることにより、公園に対する愛着がより強く芽生えたり、近隣住民の方が清掃等をする姿が目に入りやすいことで、区が管理している公園よりも近隣住民の方の協力が得やすかったりする、という実感があると言う。また、たくさんの目があるので、問題の早期発見が可能であり、大きなトラブルが起きにくいそうだ。

それでは、公園づくりワークショップには、どのような意義があるのだろうか。そして、「住民自主管理制度」のもと活動する住民自主管理団体の現場は、どのようなものなのだろうか。「子どもたちの公園づくりワークショップ」で進行を務めた、東京藝術大学博士課程在籍の一ノ瀬健太さんと、練馬区で最も長い歴史を持つ住民自主管理団体である、立野公園管理委員会の総括庶務(現場責任者)を務める、吉村維夫さんとその奥様、幸子さんに話を聞いた。

 

第3章 「能動的に人生を切り開いていく、一つのきっかけになれば」―子どもたちの公園づくりワークショップ
写真4 一ノ瀬さんの部屋に出入りしていたおじいちゃん猫、「みゃーさん」像(著者撮影) 寮生から可愛がられていたみゃーさんの骨は、この桜の木の下に埋められている
写真4 一ノ瀬健太さんの部屋に出入りしていたおじいちゃん猫、「みゃーさん」像(筆者撮影)
寮生から可愛がられていたみゃーさんの骨は、この桜の木の下に埋められている

練馬区で行われた、「子どもたちの公園づくりワークショップ」は、前述したように、「子どもたちが理想とする公園のイメージ」を公園の基本計画に反映させることを目的に開催されたワークショップで、2017年8月から開始された練馬区独立70周年記念事業である。整備された場所が東京藝術大学石神井寮跡地だったことから、練馬区が東京藝術大学に依頼をし、大学から一ノ瀬さんの方に連絡があったと言う。「自分が最後の寮長であった、ということと、まだ藝大に籍があったので、連絡が取りやすいというのがあったのだと思います。自分は石神井寮にすごい愛着があったので、是非やらせてください、ということで、即決でワークショップに関わらせていただきました」。

一ノ瀬さんが担った役割は、子どもたちの意見のまとめ役、アイディア出しの誘導、ワークショップの計画、スタッフの日程調整など、多岐にわたる。「アイディアはいきなり出てくるわけではないので、『何が好き』とか、『どういう公園が好き』というところから入って、『自然がある』という答えがあれば、『じゃあその自然にはどういうのがあるの』と聞き返し、『木がある』とか、『原っぱがある』とか、徐々に子どもたちの引き出しからアイディアを出す、ということをしていました」。

写真5
写真5 「子どもたちの公園づくりワークショップ」にて(一ノ瀬健太さん提供)

ワークショップは3つの小学校で、それぞれ4回ずつ実施された。その中で子どもたちは、石神井寮の歴史や周辺の環境の説明を聞いたり、一ノ瀬さんをはじめスタッフの方々のもと、スケッチでアイディア出しを行い、粘土で実際に模型を作ったり、互いに意見交換をし、発表をした。多岐にわたる仕事の中でも、「子どもたちが当日意見を出しやすいような事前準備や台本づくりは、実は結構綿密にやっていました」と一ノ瀬さんは語る。ただ子どもたちの理想の公園を作る、という「表の目標」の達成だけではなく、子どもたちの意見を出させた上で、共同体の中で、どういう風に意思決定の調整をしていくのか、という教育的な要素も配慮して作ったのだそうだ。

このワークショップのよかったところを問うと、「二つの面があると思う」と、まずは自分にとってよかったところを語ってくれた。一ノ瀬さんは、このワークショップを機に、色々なところでワークショップをするようになったそう。いい経験になったとともに、自分のファシリテーターとしての可能性や至らない部分を自覚させられて、それが今の「芸術家として」の仕事にすごくいい影響を与えてくれているのだそうだ。そして、参加した子どもたちにとって良かったこととしては、「実際子どもに聞いてみないと分からないですけど、すごい楽しそうだったな、というのがあります。それと、参加した子どもたちにとって、自分の意見が生かされた、という成功体験が、これから歩む人生の中でも、人生のいい成功体験というか、自分で能動的に人生を切り開いていく、一つのきっかけになったらいいのかなというふうには思いました。自分の想像が入っているので、事実かどうかは分からないですが」と語ってくれた。

写真5 完成した公園内に展示されている一ノ瀬さんの作品『記憶の宝石箱』と記念碑(著者撮影) 記念碑の文字はワークショップに参加した子どもたちが書いたもの
写真6 完成した公園内に展示されている一ノ瀬健太さんの作品『記憶の宝石箱』と記念碑(筆者撮影)
記念碑の文字はワークショップに参加した子どもたちが書いたもの

最後に、この公園づくりワークショップという事業を、もっと展開していくべきと感じるかどうか聞いてみると、「絶対した方がいいですね」と強くうなずいた。「選挙に行かない若者が増えているっていうのも、自分の一票とか自分の意思決定が、政治的なものに反映されることがないんじゃないかっていう思いが心の底にあるのではないかと思うのです。こういう公園を作る上で、自分が言った意見が本当に反映される、というところが、『成功体験』ではないですけど、『自分の発言が結果に影響を与えることできる』、ということを実感として持てる。これからの自分が生きる共同体、周りの人たちとの関係性、そうしたものを考える貴重な機会になるのではないかと思いました」。

さらに、芸術家としての視点として、「アーティストの副業にもなる」と言う。一ノ瀬さんによると、自分の描く絵や、彫刻だけで生活をしていける人はなかなかいない。眠っている社会的な課題を解決するために、アーティストが持つスキルやパワーを有効活用できれば、社会にとっても、アーティストにとってもいいこと尽くしだ。「自分目線にはなりますが、アーティストの収入になる、というのが、行ってほしいメインの理由にはなるんですけど」と笑った。

写真7
写真7 一ノ瀬健太さんと奥様の明花さん、公園を見守る「みゃーさん」像とともに(一ノ瀬健太さん提供)

公園づくりワークショップは、地域の声が公園に反映される、ということだけでなく、コミュニケーションの場が創造されることで、公園づくりそのもの以外にも、様々な側面でメリットがあるようだ。

 

第4章 「すがすがしくて、とても楽しい」―住民自主管理で支える立野公園

次にお話を伺ったのは、立野公園管理委員会の吉村維夫さん、幸子さん夫婦だ。維夫さんは、現在委員会の現場責任者を務めており、幸子さんは委員会発足当初から活動に参加されていた方である。

写真8 吉村さん夫婦(著者撮影)
写真8 吉村さん夫婦(筆者撮影)

立野公園管理委員会は、練馬区で最初にできた公園の住民自主管理団体であり、平成9年から今日まで、約23年間活動し続けてきている。現在は24名が在籍しており、主な活動としては、週3回の公園内の清掃を4人前後のグループで行い、月に2回、全体会として2時間の大規模な清掃活動を行っている。

練馬区では、通常、公園の管理は業者に依頼をしている。ところが、立野公園が完成した頃、ある区議員が公園の管理について、「地元の有志でやってもらったほうが地元を愛することができる」「業者に依頼するよりもコストダウンが可能となる」ということで自主管理を提案し、区議会でその案が通された。そして、議会から募集があったことから、公園完成から約1年後に、立野公園近隣に住む有志で集まった人々で、立野公園管理委員会が生まれた。

自主管理制度は、ボランティアではなく、住民団体と区とで正式に契約を結ぶものであり[8]、ある程度の報酬が伴うものになっている。練馬区との交渉も仕事の一つである維夫さんは、「年間いくらという契約で、細かい日常のことは完全に任されていて、自由にやらせてもらっています」と話す。交渉役といえども、3か月に一度ある、公園の状況報告以外に区と接触する機会はほとんどないのだそうだ。

もともと練馬区内の別の地域に住んでいた吉村さん夫妻は、立野公園が作られるということで、「この公園の近くにどうしても住みたかった」と、もとの家の土地を売って、立野公園近くに引っ越してきたそうだ。委員会発足当初から活動に参加している幸子さんは、「まだ若かったからやることもたくさんあったし、最初はどうしようかなあと思ったけど、月に3回くらいならできるかなあと思って、やっていくうちに20何年たっちゃった」と笑う。

一方の維夫さんがこの活動に加わったのは約5年前のことである。会社勤めだった維夫さんは、現場責任者の前任だった後藤さんに前々から、「自分が年になったら維夫くんに任せるよ」ということを言われていたそうだ。維夫さんが退職した頃、後藤さんから再度引き継ぎの話があったことから、現場責任者として委員会に加わるようになった。

この活動のやりがいを聞いてみると、二人とも「身体にいいし、気持ちがいい。とても楽しい」という答えが返ってきた。全体会の活動時間中にお話をお聞かせいただいたため、維夫さん、幸子さんの順で一人ずつインタビューをさせていただいたのだが、同じ答えが返ってきたことはとても印象的だった。

維夫さんは、「やっぱり、この年で家でぼーっとテレビを見ているより、この天気の下で清々しく身体を動かせて、プラスアルファ(報酬を)頂けるわけですから、一番いいでしょ。それでみんな続けられているのだと思います」と嬉しそうに話してくれた。

また、幸子さんは、「空気が良くって、みんな元気になってる。それに、今のこのコロナ禍で、これだけの自然の中で仕事ができるっていうのは最高のやりがいじゃあないかな。三密じゃないし、きちんとみんなお互いに距離をとって活動しているしね」と、生活が一変してしまったこの時代においても活動ができることに喜びを感じているそうだ。

写真7 立野公園管理委員会全体会の様子(著者撮影) 一人一人距離を保ちながら、活動開始前に作業の確認を行っている
写真9 立野公園管理委員会全体会の様子(筆者撮影)
一人一人距離を保ちながら、活動開始前に作業の確認を行っている。この日の主な活動は排水溝の掃除だ。

さらに、それぞれに活動をする上でのこだわりを聞いてみた。「ここは私の公園なんだ、っていうくらいの気持ちでやっています。私の公園汚してなるもんか、とかね、そういう気持ちで、やっぱり大事にしているっていうことかな」。維夫さんは誇らしげに語ってくれた。立野公園は住区基幹公園の中でも、近隣公園に分類される、広い公園であるが、公園内を歩いてみても、隅々まできれいにされている。維夫さんら、委員の皆さんが、公園を愛し、大事にされていることがよく伝わってきた。

一方の幸子さんのこだわりは、「お茶当番のお仕事」。立野公園管理委員会の全体会では、2時間の活動が行われるが、1時間経過した頃に、「お茶の時間」がある。みんなでつかの間の休憩をする時間だ。「お茶の時は少しでもみんながおいしいって言ってくれるものを作って、飲み物もおいしいと思ってもらえるものを冷やして持ってきたり、それが一番のこだわりかな。お漬物漬けたり、何か持ってくるっていうことをこだわっています、すごく。働いた後の、みんなの休憩の時のコーヒーとお茶が最高という言葉がすごくうれしいかもね」。

私も「お茶の時間」に混ぜてもらったのだが、コーヒーやお茶が用意されており、幸子さんお手製のお漬物までいただいてしまった。「幸子さんのお漬物はうまいんだよ」と、委員の方が爪楊枝にお漬物をさして手渡してくださったのだが、それがとても美味しく、なんだか心が温まった。幸子さんの用意する「お茶の時間」は、委員の方々が活動を続けてこられている一つの理由なのではないかと感じた。

このように吉村さん夫婦はじめ、24名の管理委員会の皆さんによって支えられている立野公園であるが、練馬区では珍しく、犬の連れ込みが認められている。犬の連れ込みが可能となった経緯を知っているかどうか維夫さんに聞いてみると、なんと維夫さん自身が中心となって、運動をしたのだと言う。

維夫さん自身も昔は犬を飼っており、犬が大好きだったため、どうしても立野公園内で犬の散歩が可能になってほしいと思い立ち、「立野公園愛犬家同好会」という会を立ち上げたのだそうだ。10名ほどで会議を重ね、区ともどうすれば許可をもらえるか、ということを交渉した結果、「必ずリードでつなぐこと」「フンの始末を各自で行うこと」「何かトラブルがあった際の責任は管理委員会の方で責任を持つこと」等を条件に、ルールが改定され、公園内での犬の連れ込みが可能になったのだ。大変ではなかったのか、と尋ねると、「私もあの時は一生懸命だったから」と笑い、「役所の皆さんの理解もあって、私の記憶ではそんなに難航した、というほどでもないですよ」と意外な答えが返ってきた。

写真8 立野公園に設置されている区立公園共通の看板(写真3参照) 「公園に犬をいれないでください」という文言が消され、犬を入園させる際の注意事項が掲示されている
写真10 立野公園に設置されている区立公園共通の看板(写真3参照)(筆者撮影)
「公園に犬をいれないでください」という文言が消され、犬を入園させる際の注意事項が掲示されている

犬の連れ込みが可能となってから約20年経っているが、特に大きなトラブルもなく、継続して犬と一緒に公園内に入ることができるのは、間違いなく立野公園管理委員会による管理のおかげだろう。練馬区土木部の渡邉さんのお話に合った通り、住民による自主管理は、近隣住民の方の協力が得やすいのかもしれない。

しかしながら、練馬区が「重点施策」として掲げる住民自主管理制度は、前述した通り、現在は685か所ある区立公園のうち、21団体、29か所でのみ利用されており、ほとんどの公園は区が依頼している業者によって管理されている。その背景には、そもそもこの制度があまり知られていない、という点と、既に利用されている地域においても、人手が不足してきている、という点がある。

幸子さんのお話では、既に参加しているメンバーはどんどん年を取ってしまって、新しいメンバーを探すのが大変なのだそうだ。「今は60過ぎても働いてる人が多いんですよ。女の人も。そうするとね、こういうことする人がいない。時代かなあ。それこそ学生さんたちがボランティアで月2回くらいでやろうかって言ったって、なかなか続くものじゃないし」。

一方で維夫さんは、「国が音頭をとって、バックアップしてくれれば」と話す。「私はいろんな意味で、公園だけじゃなくてね、他のところでも広がっていった方がいいんじゃないのかなと思いますけどね。企業で行くと今60歳定年、けど今って60歳って若いじゃないですか、元気でしょ。元気で何も仕事がない人って結構全国にいるわけですよね。そういう人を見ると、なんかこういうものに携わった方が、公園は一つの具体例ですけど、他のことでも、なにかに携わった方がいいんじゃないかと思いますね。国もそういうものをバックアップするとか。そうすれば国も助かるわけですよね」。

現在日本では、国全体として公園自主管理を大々的に推進しているわけではないが、練馬区内でも「重点施策」として掲げられているものの、あまり知られていないというのが実情だ。私自身、練馬区土木部への取材がなければ、存在を知らないままだっただろう。

現在、立野公園管理委員会では、誰かが委員から抜ける際には、委員の人たちみんなで協力して周りに声をかけるなどして、新しく入ってくれる人を探しているそうだ。しかし、近い将来、それだけでは手が回らなくなってしまうだろう。身内だけで行うには限界がある。今ある住民自主管理団体を守り、さらに広げていくには、維夫さんの言う通り、行政のプッシュと支援が必要不可欠となると感じた。

 

終わりに これからの公園づくりと公園管理―魅力溢れる公園に必要なものとは
写真9 夕暮れ時の立野公園の広場(著者撮影)
写真11 夕暮れ時の立野公園の広場(筆者撮影)

「子どもたちの公園づくりワークショップ」を経て作られた公園は、「練馬区立上石神井こもれび公園」として、2020年4月に開園した。実際に足を運んでみると、日が落ち始めた夕方だったにもかかわらず、遊具の周りでは多くの子どもたちがはしゃいでおり、「みゃーさん像」をなでながら会話を楽しむ親子連れを見かけたりもした。

立野公園では、近くの保育園から来たのか、先生に連れられたたくさんの園児や、走り回る子どもを見ながらおしゃべりを楽しむママたち、ベンチに腰を掛けてそれを眺めるお年寄りの方など、様々な年代の人たちで賑わっていた。

ワークショップと住民自主管理に共通するのは、地域の人との対話が生まれていることだ。ワークショップ内や、管理団体内での対話はもちろんのこと、その外の世界にも対話の機会が生み出されている。

一ノ瀬さんは、完成した公園を見に行った際、ワークショップに参加していた子どもたちにたまたま出会ったそうだ。「『あ、ワークショップのおじさんだ!』『お兄さんだろ!』みたいなやり取りをして。当時4年生だった子どもたちがもう中学生になっていたんですよ」。子どもたちの成長を感じて、公園の完成そのものよりもなんだか嬉しかった、と話していたのが印象的だった。

幸子さんは、活動をしている中で、利用者の方から感謝の声をもらえるのがとても嬉しいと言う。「キレイにしているから、使う人もキレイに使おうとしてくれているのが伝わる」。それが気持ちいいのだと。

そんな小さな対話、人と人とのつながりを、隣に住む人の顔を知らないことも珍しくないような現代を生きる私たちは、おざなりにしてしまっているのかもしれない。対話が生まれ、直接関わっていくからこそ、そこに愛着が芽生えていく。今回取材した二つの取り組みは、そのきっかけになってくれる。もっと幅広く認知され、活用されてほしいと願うばかりだ。

取材を通して、公園内の規制をなくすことはおそらく不可能なのだろう、と感じた。公共の場である以上、そこに関わる人は立場も関心も様々であり、何かしらのルールがないことには、成り立たない。立野公園で「犬の連れ込み禁止」という規制がなくなった例を挙げたが、それでも規制をなくすための「条件」がついてまわった。

ワークショップを経て作られた上石神井こもれび公園、地域住民によって自主管理されている立野公園、どちらの公園にも、規制看板はあった。しかし、私が5つの公園で行った最初の調査で感じた窮屈さはなく、開放的な空間で多くの人々が楽しそうにそれぞれ時間を過ごしていた。

公園が規制でがんじがらめになってしまっては、利用者は公園に魅力を感じないだろう。しかし、規制が多い、少ないという部分は問題の本質ではないのかもしれない。

大事なのは、見える場所で、人と人とが対話をし、互いを尊重し、利用する人も、周りに住む人も、気持ちよく公園と関わろうという気持ちを持つことなのではないだろうか。そうすれば、自ずとトラブルも減り、公園が魅力的な場所となって、人が集まってくるような気がする。

 

 

参考文献

・国土交通省『平成26年度 都市公園利用実態調査』https://www.mlit.go.jp/common/001115452.pdf(最終閲覧2020/1/14)

・国土交通省『都市公園の種類』https://www.mlit.go.jp/crd/park/shisaku/p_toshi/syurui/(最終閲覧2020/1/14)

・株式会社ボーネルンド『昔と今の公園に関する意識調査』https://www.bornelund.co.jp/contents/uploads/sites/2/2017/04/d9d41f0cb72b4d470ee07db1f6a68c60.pdf(最終閲覧2020/1/14)

・NHK 『首都圏情報ネタドリ!「“遊びも犬の散歩も禁止!?”今公園に異変」』(2020/1/31放送)

・NHK Web特集『公園のルール 多すぎない?』(2020/2/4)

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200204/k10012271801000.html(最終閲覧2020/1/14)

・古賀貴典、坂本紘二、外井哲志、武林晃司『住民参加の公園づくりについて―ワークショップによるプロセスプランニングの事例として』(2003/9)

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・岩村高治、横張真『公園計画策定時における住民参加がその後の公園管理運営活動に与える影響』(2002)

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・菅博嗣、前田文章『参加型公園づくりの全国事例概要』(1997)よりhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jila1994/60/3/60_3_234/_pdf(最終閲覧2020/1/14)

・練馬区『区民とともに練馬のみどりを未来へつなぐ―練馬区みどりの総合計画― 平成31(2019)年度~平成40(2028)年度』p.28 (2019/4) https://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/keikaku/shisaku/kankyo/midorisougoukeikaku.files/zenbun2.pdf(最終閲覧2020/1/14)

・練馬区ホームページより(2018/2/7) https://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/sumai/oshirase/workshop.html(最終閲覧2020/1/14)

・練馬区ホームページより「子どもたちの公園づくりワークショップ」を反映して作成された基本計画(2020/4/8) https://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/sumai/oshirase/kamisyaku-iken.files/concept.pdf https://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/sumai/oshirase/kamisyaku-iken.files/sekkeizu.pdf(最終閲覧2020/1/14)

・練馬区立公園の住民自主管理に関する要綱

https://www1.g-reiki.net/nerima/reiki_honbun/a100RG00002198.html(最終閲覧2020/1/14)

 

[1] 国土交通省『平成26年度 都市公園利用実態調査』よりhttps://www.mlit.go.jp/common/001115452.pdf(最終閲覧2020/1/14)図4はp.17より抜粋

[2] 国土交通省『都市公園の種類』よりhttps://www.mlit.go.jp/crd/park/shisaku/p_toshi/syurui/(最終閲覧2020/1/14)

[3] 株式会社ボーネルンド『昔と今の公園に関する意識調査』よりhttps://www.bornelund.co.jp/contents/uploads/sites/2/2017/04/d9d41f0cb72b4d470ee07db1f6a68c60.pdf(最終閲覧2020/1/14)

[4] 練馬区ホームページより(2018/2/7) https://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/sumai/oshirase/workshop.html(最終閲覧2020/1/14)

[5] 菅博嗣、前田文章『参加型公園づくりの全国事例概要』(1997)よりhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jila1994/60/3/60_3_234/_pdf(最終閲覧2020/1/14)

[6] 練馬区ホームページより「子どもたちの公園づくりワークショップ」を反映して作成された基本計画(2020/4/8)https://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/sumai/oshirase/kamisyaku-iken.files/concept.pdf https://www.city.nerima.tokyo.jp/kurashi/sumai/oshirase/kamisyaku-iken.files/sekkeizu.pdf(最終閲覧2020/1/14)

[7] 練馬区ホームページより『区民とともに練馬のみどりを未来へつなぐ―練馬区みどりの総合計画― 平成31(2019)年度~平成40(2028)年度』p.28 (2019/4) https://www.city.nerima.tokyo.jp/kusei/keikaku/shisaku/kankyo/midorisougoukeikaku.files/zenbun2.pdf(最終閲覧2020/1/14)

[8] 練馬区立公園の住民自主管理に関する要綱

https://www1.g-reiki.net/nerima/reiki_honbun/a100RG00002198.html(最終閲覧2020/1/14)

このルポルタージュは瀬川至朗ゼミの2020年度卒業作品として制作されました。