検証・兵庫知事選 「稲村和美が自身の退職金を5倍にしていた」はミスリード。 尼崎市の審議会が水準を決定
対象言説
2024年11月13日、匿名ユーザーがYouTube上で以下の動画を投稿した。
兵庫県知事選に出馬の稲村和美が自身の退職金を5倍にしていた#shorts
今回は、動画のタイトルにある「稲村和美が自身の退職金を5倍にしていた」という記載を対象言説として検証していく。
選定理由
この投稿は2025年1月8日時点で40万回以上の再生、1.4万件以上の高評価を記録しており、広く拡散されている。投稿が行われたのは2024年11月13日で、兵庫県知事選挙の投開票日(2024年11月17日)の4日前である。前尼崎市市長であった稲村和美氏は立候補者の一人だった。選挙期間中に行われた今回の投稿は、候補者のイメージを動かし選挙結果を変動させた可能性があるため、検証することにした。
判定
「稲村和美が自身の退職金を5倍にしていた」 = ミスリード
判定理由
一期目は公約に基づき自主返納
稲村氏は尼崎市市長を3期務めた[i]。したがって市長の退職金は3度貰っていることになる。一期目の退職金は、前任の市長である白井文氏の方針を引き継ぐという公約[ii]に基づき、「給料月額×在職年数」となっており、4,708,000円(1,177,000円×4年)[iii]だった。白井氏は尼崎市の市長を2期務め、1期目はおよそ490万円、2期目はおよそ470万円を退職金として受け取っている[iv]。この500万円以下という金額は、条例で定められていた尼崎市長退職金の金額約3,400万円を大きく下回る[v]。稲村氏の前任である白井文市長時代には、市長の退職金をこの引き下げられた約500万円にするという条例の提案が行われたが、市長と副市長の退職金額が逆転するなどの問題から議会で否決された[vi]。よって、尼崎市長の退職金約500万円は条例に基づくものではなく、「市長による退職金自主返納」という形の一時的な措置であった。尼崎市の制度としては、市長の退職金は約3,400万円のままだった。
尼崎市の審議会が退職金水準の見直しを決定
稲村氏は尼崎市長1期目の任期中である2011年、市長及び副市長の退職金が適正な水準かどうか諮問した[vi] 。諮問を受け、学識者や市民委員など9名で構成される特別職報酬等審議会が8回にわたり審議を行い、第8回審議会で稲村氏に答申書を提出した[vii]。答申書では、尼崎市と同じ「中核市」の最低水準にすべきとの観点から、市長の退職金は従来の約3分の2に減額された[viii]。審議の進め方として、「透明性・客観性の確保」を重視し、傍聴人の募集、各種検討資料の尼崎市HPへの掲載、市民からの公募委員などの取り組みをしたという[ix]。
稲村氏は、2期目と3期目の退職金として、特別職報酬等審議会によって検討された水準の「給料月額×在職月数×40/100」である22,598,400 円を受け取っている。これは「中核市」の最低水準ではあるものの、1期目に受け取った退職金の金額と比較すると4.8倍となっており、およそ5倍である。しかしこれは特別職報酬等審議会で決めた水準であり、稲村氏自身は、「当然、この議論には市長は関与していません」と説明している[x]。
2期目以降に受け取った退職金は、1期目の額面から見ると5倍になっているのは事実だ。しかし、1期目の退職金が、条例に定められた額より極端に低かった。また2期目、3期目の退職金の水準は、稲村氏自身が設定した金額ではない。以上の2点から、対象言説の「稲村和美が自身の退職金を5倍にした」という記載はミスリードであると判定した。
注
[i]いなむら和美プロフィール – いなむら和美 https://inamura-kazumi.com/profile/
[ii] 投票率29.35% 今回の市長選を振り返る – 南部再生http://www.amaken.jp/38/3807/
ⅲ みなさんの質問に答えます – いなむら和美 https://inamura-kazumi.com/qa/#Q23
[iv] 霍見真一郎, 「市長退職金 興味ない? 尼崎市 1130万円減額案 意見公募、反応ゼロ 市、戸惑い隠せず」, 『神戸新聞』, 2012-09-19,夕刊,p.9.
[v] 第1回 特別職報酬等審議会|尼崎市公式ホームページhttps://www.city.amagasaki.hyogo.jp/shisei/si_mirai/singikai/1038637/1038639/025tokushin1.html
[vi] 霍見真一郎, 「市長退職金 興味ない? 尼崎市 1130万円減額案 意見公募、反応ゼロ 市、戸惑い隠せず」, 『神戸新聞』, 2012-09-19,夕刊,p.9.
[vii] 答申書の提出|尼崎市公式ホームページhttps://www.city.amagasaki.hyogo.jp/shisei/si_mirai/singikai/1038637/1038639/025saishutoushin.html
[viii] 尼崎市特別職報酬等審議会, 『答申書 市長及び副市長の退職手当の適正な水準並びに給与の在り方について』, p.14-15, 2012年9月6日.
[ix] 同上, p.4-5.
[x] みなさんの質問に答えます – いなむら和美 https://inamura-kazumi.com/qa/#Q23
運営責任者=瀬川至朗
記事担当者=奥山莉里花、菅原丈矢、平野智久、井上翔太
本記事は、2024年度秋学期のアカデミックリテラシー演習(ファクトチェックの理解と実習)=担当教員・瀬川至朗=の受講生が作成しました。
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